休日の朝、私は意気揚々と家全体の掃除に取り掛かっていました。特に気合を入れていたのがトイレです。普段はなかなか手の届かない便器の縁や床の隅まで、市販の「トイレに流せる掃除用シート」を使って念入りに磨き上げました。厚手で丈夫なそのシートは、汚れを次々と絡め取り、私の心までスッキリさせてくれるようでした。掃除が終わり、私は汚れた数枚のシートをまとめて便器に放り込み、洗浄レバーを回しました。これが悪夢の始まりでした。普段なら勢いよく吸い込まれていくはずの水が、なぜか便器の淵ギリギリまでせり上がってきたのです。私は凍りつきました。流せるシートという言葉を過信し、一度に四枚も五枚も重ねて流してしまったのが原因であることは明白でした。水はゆっくりと引いていきましたが、完全に開通した様子はありません。焦って二度目の水を流すと、今度は溢れんばかりの状態になり、私は絶望的な気分でトイレの床に膝をつきました。結局、その日の午後は業者を呼ぶ羽目になり、数万円の痛い出費を強いられました。駆けつけた修理スタッフの方は、私の使ったシートをバケツに取り出しながら「流せると書いてあっても、家の配管の太さや水の勢いによっては、こうして簡単に詰まってしまうんですよ」と優しく、しかし重みのある言葉をかけてくれました。特に古いマンションなどは排水管の勾配が緩やかなことが多く、シートのような厚みのあるものは途中で止まりやすいのだそうです。この日以来、私は流せるシートを使うのをやめたわけではありませんが、必ず「一枚ずつ、たっぷりの水で流す」ことを鉄則にしています。あるいは、どんなに小さなシートであっても、ゴミ箱に捨てるという選択肢も持つようになりました。あの時感じた、水が溢れてくる恐怖と経済的な損失を考えれば、少しの手間を惜しむべきではないと痛感しています。一枚であれば流れたはずのものが、二枚、三枚と重なることで、配管内での体積は等比級数的に増大し、わずかな段差で深刻な渋滞を引き起こします。水道局の統計によれば、下水処理場のポンプ施設に絡みつく不溶性繊維の量は年々増加傾向にあり、その多くが掃除用シートやウェットティッシュであることが判明しています。